関西を拠点に現代美術アートの体感型イベント「ART OSAKA 2026」。2002年の創設以来、24回目を迎える今年は、北加賀屋のクリエイティブセンター大阪で行われる「Expandedセクション」に加え、今、注目を集める都市再開発エリア・グラングリーンにある、コングレスクエア グラングリーン大阪(うめきた)にて、「Galleriesセクション」と題して初開催。新たな文化発信拠点として可能性が広がる“うめきた”に、国内外のギャラリーやアーティストが集まり、熱気と共に、アートを介した出会いや対話を生み出します。また、もう一つの会場となる”北加賀屋”では、通常のアートフェアでは収まりきらない大型作品やインスタレーションが展示され、かつて造船所として稼働していた近代化産業遺産の記憶と作品が、ここでしか味わえない鑑賞体験を生み出します。
国内問わず厳選された52ギャラリーが参加する 「Galleriesセクション」と13組のアーティストが参加する「Expandedセクション」で構成されるアートイベント。
今回は、クリエイティブセンター大阪で開催されている「Expandedセクション」にお邪魔してきました。


Expandedセクション
かつて造船所として稼働していた近代化産業遺産を活用した、広大でインダストリアルな空間は、大型作品やインスタレーションを展開する重要な舞台となっています。
ART OSAKAの20回目という節目の年に立ち上げられた本セクションは、大型作品に特化したセクションです。アート・バーゼルの「Unlimited」を参考に、作品のスケールだけでなく、ジャンルや美術の根念、アートフェアにおける発表や販売のあり方そのものを拡張することを目指して名付けられました。
日本国内では、大型作品がすぐに販売へと結びつくケースはまだ限られていますが、美術館や公共空間、企業コレクションなどへの収蔵・設置につながる可能性を開く場として、また、作家にとって次のステップにつながる発表の機会として、ギャラリーも意義を持って出展しています。そして、近年では、韓国、台湾、アメリカなど海外からの出展もあり、国際的な広がりをみせています。
北加賀屋駅から徒歩約10分の港近くに位置しており、1フロア約1,200平方メートルの1階から4階までの建物と野外展示場に13のギャラリーの作品が展示されています。また、本会場の目の前にあるSTUDIO PARTITA クリエイティブセンター大阪では、FUKUGAN GALLERYとの共催により、関西ストリートカルチャーの聖地・アメリカ村の「ムラタ酒店」を軸にその歩みと現在の姿を紐解く特別企画を開催しています。
作品紹介
1Fフロア

Artist:アンチテイル(国谷 隆志氏・はしもとともこ氏)
出展作品:《視線と夢》
2025年に、結成したユニット「アンチテイル」の作品。
鏡や砂時計、ネオン、鳥の羽、蚊取り線香といった多様な素材を用いながら、彫刻やオブジェ、インスタレーションを通して表現を続ける国谷氏。自身を取り巻く世界の中で、人がどのような位置を占め、身体や空間、時間、光、物の配置によって視点や移動がどのように変化するのかといったテーマを基に制作活動を行っています。また、人と物事との向き合い方や存在のあり方についても探求を重ねています。
はしもとともこは、Tagui Studioとして、ぬいぐるみを中心とした玩具制作や小物、アクセサリーのデザインを展開。玩具の歴史や役割を紐解きながら、“玩具として機能する表現”を探求する制作発表を行っており、その制作物群は総称して「Tagui」と呼ばれています。「類(たぐい)」という言葉に由来し、多様な存在や価値観を内包するコンセプトが込められています。
2Fフロア
Artist:笑うが虹へ(玉住 聖氏・井川 剛志氏)
出展作品:《“□□EXEXEXEX□□”》
玉住聖と井川剛志によるコレクティブ「笑うが虹へ」は、無意識という視点を通して、個人と社会の関係性に焦点を当てた制作活動を展開しています。
本展示では、産業の発展や人口の急激な流入により、都市の許容量を超えて人口や機能が過度に集中した現代都市を舞台に、人々の中に蓄積される“総合的無意識”を読み解きながら、その構造を視覚化。膨大な情報が洪水のように流れ込み、整理されないまま個人の内側で接続されていく現代社会のあり方を、象徴的な表現で浮かび上がらせており、鑑賞者に対して、都市と個人の関係性を改めて見つめ直す機会を提示する展示となっています。



Artist:宮田 彩加
出展作品:《千鮭万来》
宮田氏自身が、大学で染織を学んだ経験をベースに、手刺繍やミシン刺繍を独自に発展させた表現を展開。布を作品を成り立たせる土台として扱うだけでなく、糸そのものを用いて立体的な造形を生み出し、生き物を思わせるような形状やうねりを表現し、刺繍の枠を超えた独自の作品世界を生み出しています。
本展示では、観葉植物や絨毯、静物画など、日常に溶け込むモチーフを取り入れながら、現実と非現実が交錯するような風景を描き出し、穏やかな日常の中に潜む小さな違和感や、日常の中にある小さな変化や繊細な空気感を作品に落とし込み、繊細な雰囲気をまとった作品を制作しています。


Artist:三苫 ケイト
出展作品:《odoriko series / this spot 2》
画家・小磯良平の《踊り子》(1938年)をオマージュした映像作品を起点に構成されたインスタレーションを展開。舞台裏で腰掛ける“踊り子”の姿を通して、鑑賞される側と鑑賞する側の関係性や、静と動、表と裏といった相反する要素が相反する要素が入り混じる独特の世界観を表現しています。
三苫氏は、これまで写真や映像、オブジェ、パフォーマンスなど多様な手法を横断しながら作品を制作しており、既製品や自然物、ドローイング、さらには自身の身体までも取り込みながら、固定された意味や価値観を揺さぶる表現を探求してきました。
作品にはどこかユーモラスで軽やかな感覚が漂う一方で、単純には読み解けない違和感が共存しており、鑑賞者が無意識に抱く“芸術らしさ”や“正しい鑑賞の仕方”への先入観に静かに問いを投げかけながら、「芸術」とは何かをあらためて考えさせる作品となっています。
撮影では“空気椅子”の状態を維持しながら演じており、映像を注意深く見ると、足のわずかな震えや瞬きといった細かな身体の動きが映し出されています。

3Fフロア
Artist:相良 育弥
出展作品:《名付けられる前の風景》
茅葺の職人集団の親方でもある相良氏は、その経験を生かしながら、自然の美しさや力強さを表現しています。会場には、2023年にフランス・パリのルーヴル美術館で開催された「Artisans d’Art(アーティザン・ダール)」のファイナルまで残った作品のシリーズも展示。さらに、ART OSAKAに合わせて制作された新作の壁面パネル作品も披露され、藁という伝統素材を通して、自然と人の営みを結びつける独自の世界観を展開しています。


Artist:小泉 遼
出展作品:《Resonant Field》
福島県を拠点に活動する小泉氏は、もともと庭師の家系に生まれ、自身も学校卒業後に約10年間、庭師として活動。その経験を経て、幼少期から親しんでいた絵を再び描き始め、現在は制作活動に軸を置いています。”庭づくりにおいて植物や石の配置、成長後の風景を思い描きながら空間を構成していく感覚は絵画制作にも通じている”と語る小泉氏の作品では、円相や後光といった東洋的思想を、油彩という西洋的な技法を用いて表現。繰り返し手を動かしながら線を重ねていく行為は、自己と向き合う内省的なプロセスであり、その姿勢は禅の修行にも通じるという。円環状に反復される筆致は、わずかな差異を生みながら時間の痕跡として画面に蓄積され、作品には静かな緊張感と力強さが宿っています。

Artist:ライ・コーウェイ
出展作品:《プラスチックの陶》
陶磁とプラスチックという対照的な素材の論理を重ね合わせながら、使い捨てられるプラスチック製器物を陶磁へと置き換えることで、価値と消費の関係性を問い直しています。量産と反復のプロセスの中で生まれる、わずかな差異や久陥は金彩で強調し、それらを不完全さではなく、“存在の痕跡”として提示することで、保存と廃棄、貴重さと無価値といった相反する境界を揺さぶる作品へと昇華しています。




Artist:村本 剛毅
出展作品:《いくつかの媒体 / 視るもの》
初出展。村本氏は、独自の“媒体”を発明・彫刻する実践を通して、知覚やコミュニケーション、移動といった行為に介在する「媒介」のあり方を探求。見ること・伝えること・認識することの境界を問い直す試みとして展開されています。
今回、展示されていた代表作、「Imagraph」は、瞼を通して閉じた眼にビデオ見せる投影機で、ベッドに横たわり、目を閉じた状態で作品を体験します。この投影機は、あらかじめ皮膚の血色を抑え、青みがかった色調へと変換された映像の光が、閉じたまぶた越しに投影されることで、色彩や動きが視界の中に浮かび上がる仕組みになっています。本来、光を遮断するはずの“まぶた”が、同時に映像を受け取る媒体へと変化する点が特徴で、閉眼という特殊な状態のなかで、映像の光は鑑賞者自身の記憶や無意識のイメージと混ざり合い、境界が曖昧になっていった結果、どこまでが実際に提示された映像で、どこからが自身の内側で生まれた感覚なのか、現実とイメージの境界が揺らぐ体験へと導いていきます。
また、制作活動と並行して、内容を伝達するための“器”ではなく、媒体そのものを芸術表現として捉える実践を「Medium-Art(メディウムアート)」と提唱。その理論的背景や芸術史的系譜についてもリサーチを重ねています。

Artist:井出 日出志
出展作品:《Rain on the peninsula》
生物学者フランシスコ・ヴァレラが提唱した、身体性や他者性、環境との相互作用といった意識の在り方を着想源に、非言語的なアプローチによる作品制作を展開しています。
自身を主体であると同時に環境の一部、あるいは、個でありながら社会とも接続された存在として捉えながら、固定化された自己像に回収されない感覚を漂わせるように作品を構築しており、木の幹に痕跡を残す虫の営みにも着目し、自然界に宿る有機的なリズムや痕跡を取り込みながら独自の表現へと落とし込んでいます。

Artist:深川 瑞恵
出展作品:《つぎあう記憶》
日常のなかでふと現れる小さな変化や、何気ない発見に静かに目を向け、そこで感じ取った感覚を直接言葉に置き換えるのではなく、野に咲く名もなき植物の姿を借りることで、繊細な感情や記憶を視覚的な表現へと再構築している作品です。
近年は「モノの唄」シリーズを展開。役目を終え、小屋の片隅で静かに佇む道具たちに着目し、使い込まれた表面に残る無数の傷跡から、人の営みや時間の蓄積を読み解くことで、そこに刻まれた記憶や物語を丁寧にすくい上げ、可視化する作品として昇華させています。

Artist:鈴木 淳夫
出展作品:《掘る絵画》
木製パネルに絵具を重ね、さらに表面を彫り込むことで作品を制作。削る行為によって画面には凹凸が生まれ、平面であるはずの絵画は、次第に彫刻的な立体性を帯びます。鈴木氏が制作を重ねるなかで、「支持体が変わっても絵画は成立するのか」「どこまでを絵画と呼べるのか」といった問いが浮かび上がり、作品のテーマへと発展していったそう。
また、彫ることで現れる凹凸は、「表と裏」「ネガとポジ」といった相反する関係性を可視化する要素としても機能していおり、今回の展示では、そうした二項対立や空間性を内包した存在として絵画を捉え直し、その境界を探る試みが展開されています。
開催期間中、会場では実際に作業をされている様子も見学することができます。
4Fフロア
Artist:西本 剛己
出展作品:《ノア:復活の製図室》
かつて造船所の製図室に、新たに船を思わせる造形が出現し、それが中に浮かんで出航の知らせをつけるような大型インスタレーション作品を展示しています。1960〜70年代の造船所を参照した構造や道具を再構築し、当時の空気感や労働の痕跡を現代に呼び起こすような空間を演出。アメリカから取り寄せたパーツも取り入れながら、失われつつある造船文化の記憶を立体的に浮かび上がらせています。
作品の中核には、船材や帆布、鏡面表現といった要素が用いられており、“再生”や“変容”を軸に、空間全体が構築されています。特に帆布は、船の帆として使われてきた歴史に加え、エジプトのミイラ文化とも接続される素材として扱われ、生と死、朽ちることと蘇ることを象徴する存在として配置されています。巨大なインスタレーションと共に展示されているサナギのような作品は、西村氏の過去と重ね合わせられており、床面に広がる鏡を用いて、水面や昆虫の複眼を思わせるイメージを生み出すことで、現実と非現実の境界の曖昧さを表現しています。
さらに西本氏は、聖書に記された「ノアの方舟」の寸法体系を参照しながら作品を構成。会場全体を巨大な“方舟”のような空間として立ち上げることで、人類の文明や戦争、そして終末と再生への思索を重ね合わせ、歴史の記憶と現代社会への問いを投げかけています。


屋外展示場

Artist:伊勢崎 寛太郎
出展作品:《庭と宇宙とワニ》
岡山県備前市生まれの伊勢崎氏は、伝統工芸である備前焼と土地との深い結びつきを身近に感じながら育った経験を背景に、人と土地の関係性をテーマに制作活動を行っています。
地中や窯の中で物質が変化していく現象に着目し、物質に内在する時間性や場所性、存在のあり方を探求。彫刻やインスタレーションを通して、それらを可視化する作品を発表しています。
近年では、備前焼の制作プロセスそのものを“場所と関わる彫刻行為”として捉え、土を掘る、練る、焼くといった工程を作品へと変換し、制作行為を通じて、人と場所の新たな関係性を探る試みを続けています。
◼︎開催概要◼︎
<Galleries Section(うめきた)>
・開催日:2026年5月30日(土)11:00-19:00-31日(日) 11:00-17:00
・会場:コングレスクエア グラングリーン大阪 〒530-0011 大阪市北区大深町5-54 グラングリーン大阪 南館4階
<Expanded Section(北加賀屋)>
・開催日:2026年5月29日(金)-31日(日) 11:00-19:00/6月1日(月) 11:00-16:00
・会場:クリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場跡地)〒559-0011 大阪市住之江区北加賀屋4-1-55
▶︎アクセス:こちら
▶︎共催イベント:こちら
鑑賞後は北加賀屋の町を探索
北加賀屋は今、新たなアートスポットとしても注目されています。千島土地株式会社が、2009年より所有地である北加賀屋にてアートによるまちづくりを推進しており、数種類のアートタウンマップも展開。倉庫や工場跡地を活用したギャラリーやクリエイティブスペースも増え、アートと日常が自然に溶け合う独自のカルチャーが広がっています。マップには、街に点在しているアート作品だけでなく、ランチ・カフェ・ディナー・テイクアウトに立ち寄れる飲食店も掲載されており、作品鑑賞だけにとどまらず、街全体を巡りながら新たな発見に出会えるエリアとして、多くの人々を惹きつけています。休日のお出かけスポットとしてマップを片手にお気に入りのアートを探してみてください。




